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就職事例

就職までの経緯

選んだ理由は、社会人マナーやビジネス知識など学び、そこで得たものを作業や職場実習を通して経験する、この両者をバランスよく訓練できそうだったから。「ここ(訓練)でもう学ぶことがないと思えたら、働く準備ができたということ」とイメージできたそうです。就職までの見通しを立てられることがSさんにとって重要なことでした。
訓練を受け1年半。周りの訓練生たちが職場実習に出たり、就職が決まったり、活発な動きにSさんにも変化が。ここに通うことが目的ではなく「就職がしたい」という気持ちが強くなります。Sさんにとって、働くということは全くの未知の世界。まずは「職場」というものを確かめ、訓練と何がどう違うのか、自分はその仕事ができるのかどうか確かめることにしました。
いざ見学をすると、社員の方たちがてきぱきと仕事をこなしていました。「やめたいと言ったらだめですよね」と冗談と本音が混じります。そうした緊張感の中、2週間の実習を開始。
大手企業では、本社で障害者雇用を勧めていても実際の現場は消極的、受け入れ体制が整っていない、という状況が多々あります。Sさんが職場実習に入ったときもそのような状態でした。しかし、Sさんの礼儀正しく挨拶をする姿や、とまどいながらも一生懸命仕事をする姿勢を周りの人たちがよく見ていました。障害があってもなくても「ひとつの個性」を持った他の従業員たちと変わりがないことに企業側の意識も変化。Sさんも「この職場なら、もしかしたら慣れていけるかもしれない」と、実際の雇用形態に合わせた条件で、再実習を行います。
見学時に立ちはだかった不安の壁。そこから一歩を踏み出し、挑戦し続けること約1カ月。「このまま、売り場担当として来てほしい」と一戦力としての採用でした。


―講座中のSさん

現在行っている業務

飲料コーナー担当のSさんは、商品の品出しが主な業務です。重い段ボールを毎日持ち上げる。体力勝負です。
また、バックヤードからパレットを使って売り場まで運ぶのは、とても技術がいります。作業中、人や商品にぶつからないように、また効率よく常にスピードも意識しなければなりません。これまでSさんは自分の体幹のアンバランスさに苦労してきたことがありました。その分、他人よりも危険を察知し、注意すべきことに対してはとても慎重。その慎重さが、どの仕事にも今確実に役立っています。
そして、接客は何よりも大事な仕事。Sさんは笑顔を意識して作るということが苦手でした。ですが、お客様に対しては「何か、スイッチが入るんですよ」と、とても気持ちのよい応対をすることができます。映画好きなSさんは、映画のワンシーンに接客シーンをあてはめます。どんな会話がかわされるとお客様が笑顔になり、感謝されるのか。そんな独特の視点がSさんの個性とあいまって仕事を楽しくさせます。子供連れのお客様も多く、子供の心をつかむのが得意なSさんは、小さなお客様からも「ありがとう」を言われるそうです。


―商品の補充

過去の挫折や苦労

試練は、入社して間もない頃でした。担当部署内でいつものように作業をしていたとき、Sさんの雇用形態を知らないスタッフはSさんが他の部署を手伝わないこと(いつもと違う緊急の状況だった日)に腹を立て、Sさんを怒鳴るということがありました。スタッフ数100名をゆうに超える職場。各部門責任者や仕事上関わる社員へのSさんの障害の周知はありましたが、知らないスタッフも存在します。仕方がないことであっても、Sさんはひどく傷つき人に対しての恐怖感、自分自身をひどく責めるようになります。
そうした辛い中でもSさん自ら事態を変えるきっかけを作ります。「自分はこういう人間です」と障害特性を自分なりに分析し、接するときの解決策も含め自分の言葉で書いた「自分の仕様書」を作成。企業側は再度各部門へ周知させ、Sさんも新しく関わる人ができるたびに手渡しをしていきました。
今、あのときの傷ついた感情はすっかり克服できたのかと聞くと、「乗り越えたわけではないです。ただ、自分の支えとしていたことがありました。」と。1つはまだ働いて1年経っていないということ。履歴書に1年未満の職歴は書きたくないと思った。だから1年は様子をみようと。もう1つは、体型の変化。以前から痩せたくても痩せられなかった自分が、働いているだけで筋肉がつき、体が引き締まっていったのがSさんにとってうれしいことでした。働き続ける理由がそこにありました。
我慢と希望が交差する中、時は過ぎ、今は大変さを抱えながらも働ける自分に自信がついているのではないでしょうか。


―Sさんが作成した自分の仕様書

プライベート

休日はスペシャルランチを用意しています。Sさんの凝り性がここで発揮。週に一度は心の贅沢をしよう、とちょっと奮発して高いお肉を購入(スーパーで働く特権!)。肉ハンマーでさらに柔らかくし、焼いている間に特性のソースを作る。その日美味しくステーキをいただくために朝食も質素にし、お腹の準備も整える。頑張った自分へのご褒美イベントは体力仕事のSさんの心と体の栄養になっています。
最近は、貯まったお金で自分の部屋にTVを購入。お酒を飲みながら、好きな映画をみる。いただいた給料を家への生活費と自分の楽しみ使う。「必ず貯金はしています」というSさんは、決まった貯金額を貯めるということも一つの楽しみとなっています。
オンとオフの切り替えがうまくいっていることが、仕事でのストレス対処へ自然とつながっているようです。

今後について

はじめての職場で確実に成長をしている。そのことを働いていなかった頃の自分と比べ、一番感じているのはSさん自身ではないでしょうか。今、上司から仕事を任され、信頼され、お客様とのやりとりもスムーズにできてきている。その自信を安定させながら、将来のことを考えていきたい、と自立への道も模索中です。
将来一人暮らしをイメージしたとき、自立とは、働き方を変えていくこと(収入を増やすこと)だけではないのかもしれない。自分の生活そのものを家族が見て安心するような、ちゃんとした暮らしを実践したい。「まずは、自分の部屋を片付けようかな」自分のどんなところを見て家族は安心するのか、一人暮らしができる自分だと思えるのか、「自分のやるべきことをやっていこう」母親思いのSさんらしい言動。
お金だけでなく、日常の在り方を考えられるSさんは、すっかり社会人になったのだと感じました。